『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー書評レビュー

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー書評レビュー

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー(2006)年は、2007年にピュリッツァー賞を受賞した長篇小説。

近未来のアメリカで核戦争などによって破滅した後の世界で生き延びる父と息子の物語。

2009年には主人公の父親役としてヴィゴ・モーテンセン主演で映画化されたので、こちらのトレイラーをご覧頂くと作品の雰囲気が理解しやすい。

銃と暴力

食糧を探し求めるのは当然だが、生き抜くために必要なのが銃だ。無法者から身を守るのはもちろん、追い詰められた最期に自ら生死を選べる手段として、銃はアメリカならではの意味を持つ。

暴力や核戦争などがもたらした荒廃したディストピアにあってなお、頼るべきは銃という武器であることに皮肉を感じる。

アメリカ文学の名作

やるべきことのリストなどなかった。今日一日があるだけで幸運だった。この1時間があるだけで。”あとで”という時間はなかった。今がその”あとで”だった。胸に押し当てたいほど美しいものはすべて苦悩に起源を持つ。それは悲しみと灰から生まれる。

読点のない装飾の削ぎ落とされた文体はヘミングウェイを想起させる。ヘミングウェイといえば、作品の最後に「川鱒」のエピソードが出てくること、そもそも父と子という物語の共通性でヘミングウェイの影響を感じた。

また、人肉食の場面が出てくるあたりは、個人的にはメルヴィルやコンラッドの作品を思い起こした。善と悪という問題について、英米文学では重要なテーマとなっており、『ザ・ロード』もまた現代〜未来における善悪問題を取り上げている。

ヘミングウェイやメルヴィルが現代に生きていて、ディストピアの長篇を書いたらこのような物語になったかもしれない。その点で、コーマック・マッカーシーは現代アメリカにおける「正統派」の小説家だと思う。

作者コーマック・マッカーシーについて

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訳者あとがきによると、ハロルド・ブルームは現代アメリカの最も重要な作家として、以下の4人を挙げている。

また、2006年にNew York Times紙がとった「過去25年間で最も優れたアメリカ小説は」というアンケートの結果、『ブラッド・メリディアン』が第3位になっている。

文庫本で333ページの本書は、意外とすぐに読み終えてしまった。本書に登場する父と同じように、早く終わってほしいと思いながら、同時に生き延びる、読み続けることに希望や善を求める読書体験となった。

ところで、著者のコーマック・マッカーシーは1933年生まれということで、本書が出版されたのが2006年だから73歳の作家がこのような作品を書き上げたことに驚いた。