コーエン兄弟監督の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(Inside Llewyn Davis)(2013年)を観た。
コーエン兄弟の作品では、『バートン・フィンク』『ファーゴ』『ビッグ・リボウスキ』『オー・ブラザー!』『ノーカントリー』などを観て、どれも好きな映画だ。独特の雰囲気、登場人物の生き方、伏線・小物・笑いのセンスがいい。
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』もまた、コーエン兄弟らしいユニークな映画だった。
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』の特徴
まず気づくのは、セピア調の映像が時代の雰囲気や作品のトーンを決定していること。
ロード・ムービー、ミュージック映画でありながら、コーエン兄弟のいい具合に脱力感が効いている。
はっきりとした原作やモチーフにもとづく映画ではなく、コーエン兄弟のオリジナル脚本による映画。
主人公ルーウィン・デイヴィスを演じるのはオスカー・アイザックという俳優。劇中歌は撮影中に生で録音されたという。
要所要所にコーエン兄弟おなじみの俳優が演じる謎のキャラが登場する。その「意味」とかはわからないけど、単純に笑える場面は何度もあった。コーエン兄弟の映画はくだらないキャラとかしょーもない小ネタ、セリフが笑えるのだが、この映画もいつも以上に笑える映画だった。
野良猫的、ボヘミアンの生き方
1961年のグリニッジ・ヴィレッジで生きるボヘミアン。
ボヘミアン
社会の習慣に縛られず,芸術などを志して自由気ままに生活する人。(大辞林)
この映画のポスターを見てわかるとおり、主人公ルーウィン・デイヴィスは逃げだした猫を探し求める。
しかし猫は捕まえたと思っても、いつのまにかするりと手の間をすり抜けて逃げてしまう。どこへ行ったのだと悩んでいると、いつの間にか家に帰ってきている。
主人公ルーウィン・デイヴィスもまた、あっちこっち転々として、身が定まらない。猫のようにふらりと出かけたり、帰ってきたり、居候したり、追い出されたりする。ルーウィン・デイヴィスは猫を追いかけるが、実は彼自身もまた野良猫のような生き方をしているのだ。
そんなルーウィン・デイヴィスの野良猫のような生き方、ボヘミアンの生き方がとても魅力的な映画だった。
よかったところ
フォーク・シンガーを主人公にした映画としては、『はじまりのうた』(2014)を観たが、あまりおもしろくなかった。というのは映画のなかで繰り返し歌われる音楽が好きになれなかったから。結局、音楽を扱った映画は劇中歌を気にいるかどうかで、映画の評価がわかれる。
その点、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』は単純に自分の好みに合った音楽だったし、コーエン兄弟が撮ったということがプラスになり、自分にとっては良い映画だと思えた。
特に、ルーウィン・デイヴィスを演じたオスカー・アイザックの演技と歌が実在のアーティストのようにリアルで、魅力的だった。
物足りなかったところ
唯一、この映画に注文をつけるとすれば、もっと長い映画にしてほしかった。
最後に歌われる曲を聴いて「ルーウィン・デイヴィス」というアーティストのファンになったところで映画は終わってしまう。104分という長さでは、一人の魅力的なアーティストの全貌を描くことはできない。
コーエン兄弟は「ルーウィン・デイヴィス」という(架空の)アーティストの一週間を描いた。だから、物足りなさがあって当然だが、もっと観たいと思わせてくれた。
おすすめ度:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️