「ジャズ」と聞くとついつい20世紀に流行った過去の音楽だと思ってしまいがちだ。
しかし、2018年に発売された2枚の名盤を聴くとその考えは変わる。まだまだジャズには新しい「発見」があるんだと感じられる。
この記事では、2018年に発売されたおすすめの名盤アルバム2枚をご紹介したい。
『ヘヴン・アンド・アース』カマシ・ワシントン
Heaven and Earth / Kamasi Washington
おすすめ度:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
カマシ・ワシントンは1981年アメリカ生まれのテナーサックス奏者。2011年に初アルバムを発表。ラッパーのケンドリック・ラマーの To Pimp a Butterfly (2015)にもサイドメンバーとして参加している。フジロックフェスティバル等で日本にも来日演奏した。
一部のジャズファンのあいだではすでに有名なようだが、私はこの『ヘヴン・アンド・アース』ではじめてカマシ・ワシントンを知った。
私が参考にしている音楽レビューサイトPitchforkでも10点満点中8.8点の高評価になっていて、試しに聴いてみたら確かに予想を上回るスケール感のある演奏だった。
『ヘヴン・アンド・アース』は〈ヘヴン〉と〈アース〉と題された2枚のディスクで構成され、16曲2時間24分の長さがある。
総勢で70名もの人がアルバムに関わったというだけあって、ビッグバンド/アンサンブルな重層的な演奏は聴きごたえがある。
(カマシ・ワシントンのインパクトのある風貌や、「宇宙」を感じさせるようなスケール感はサン・ラ・アーケストラを彷彿とさせる。音楽スタイルは似ているようでかなり違うが)
前半の〈ヘヴン〉では、Can You Hear Mim、Hub-Tones、One of Oneの3曲が良かった。アンサンブル、コーラス、ソロのどれもがオリジナルで、カマシ・ワシントン独自の重層的な曲作りが味わえる。
後半の〈アース〉では、最後の3曲The Psalmnist、Show Us the Way、Will You Singが聴きごたえがあった。カマシ・ワシントンが長くて熱いリードソロをとっていて、サクソフォニストとしてのカマシ・ワシントンの演奏が聴ける。
この長編大作を聴き通してみるとわかるが、かなり聴き込まないとカマシ・ワシントンというミュージシャンの全体像がつかめきれない、と思う。何度も言うが構成が重層的で大掛かりだ。反面、聴き疲れするともいえる。
2018年のジャズはこれくらいの大掛かりな「セット」を用意しないとリスナーはついてこないのかもしれない。そういう意味で、カマシ・ワシントンの強烈な音楽と風貌はインパクトが大きく、2018年にあってもリスナーを引き寄せるパワーが感じられた。巷で「新世代ジャズの黄金期の象徴」と呼ばれていることにも納得できる。
参考リンク:カマシ・ワシントン『Heaven And Earth』 ジャズの可能性を更新し続ける新世代ジャズの象徴 | Mikiki
『ザ・ロスト・アルバム』ジョン・コルトレーン
Both Directions at Once: The Lost Album / John Coltrane
おすすめ度:⭐️⭐️⭐️⭐️
2枚目はジョン・コルトレーンの「新作」。
1963年3月6日に録音された未発表音源のリリース。未発表のオリジナルも2曲収録されているため「新作」になる。
これはまるで、巨大ピラミッドの中に新たな隠し部屋を発見したようなものだソニー・ロリンズ
こちらもPitchforkのレビューで8.6点と高評価を得ている。
メンバーは「黄金のカルテット」は呼ばれたミュージシャンが集まっている。
ジョン・コルトレーン(ts, ss)
マッコイ・タイナー(p)
ジミー・ギャリソン(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)
私はジョン・コルトレーンの作品では『マイ・フェイヴァリット・シングス』(1961)が好きなのだが、共通するメンバーで演奏した作品を新たに聴くことができ感動した。
このアルバムで初発表となった「新曲」は上に貼り付けた2曲。
- アンタイトルド・オリジナル 11383 (MONO)
- アンタイトルド・オリジナル 11386 (MONO)
「11383」は勢いのあるテーマ、「11386」はゆったりと広がりのある曲で、「マイ・フェイヴァリット・シングス」を思い出させるような好みの演奏だった。
ほかには、後半の2曲Slow BluesとOne Up, One Downもまたコルトレーンのオリジナルな演奏が味わえる演奏で、メンバーの3人のソロも素晴らしい。
カマシ・ワシントンの『ヘヴン・アンド・アース』といっしょに聴いていると、『ザ・ロスト・アルバム』もつい先日録音されたような新鮮な音楽に聴こえた。
55年の時を経て「新作」が発売されたことも不思議な気分だ。
コルトレーンを追いかけて
先日、NETFLIXで『コルトレーンを追いかけて』(2016年)というドキュメンタリーを観た。
コルトレーンの生涯が各界の著名人へのインタビューをはさんで語られる。マイルズ・デイヴィスのグループに加入し、セロニアス・モンクのもとで学び(知らなかった)、黄金のカルテットで自分の音楽を確立し、『至上の愛』を経るまで。
このドキュメンタリーにカシマ・ワシントンが(一瞬だけ)登場し、コルトレーンの音楽についてこう語っていた。
他の人にはない強烈なサウンドだ
太陽を直視するみたいだよ
コルトレーンのサウンドはまぶしく光り輝いている
おなじサクソフォン奏者として、当然ながらカマシ・ワシントンはコルトレーンにも影響されている。
ちなみにこのドキュメンタリー『コルトレーンを追いかけて』では、コルトレーンの最期のツアーとなった日本の長崎でのコルトレーンの姿が語られる。「戦争は嫌いだ」と語る知られざるコルトレーンの姿を観ることができた。ジャズファンならおすすめのドキュメンタリーだった。
コルトレーンからカマシ・ワシントンへ
かつて60年代に活躍したフリージャズ、サックス奏者のアルバート・アイラーはサックス奏者の系譜についてこう言ったという。
コルトレーンが父親、ファラオ・サンダースは息子。わたしは精霊(ホーリー・ゴースト)だ
この系譜に追加すべきサックス奏者はたくさんいるだろうが、カマシ・ワシントンはきっとこの偉大なサクソフォニストの系譜に名を連ねることだろう。
最後に
2018年に発表された2枚のジャズの名盤はどちらもサックス奏者によるアルバムだった。
偶然だが、2018年にジョン・コルトレーンとカマシ・ワシントンの新作が交わるようにして発表されたことは印象的なできごとだ。
個人的には、ジャズの「新作」で感動したことに感動した。これからはもっと新しいジャズも聴いてみたい。
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