カルロス・カスタネダ『呪術師と私』感想

カルロス・カスタネダ『呪術師と私 ドン・ファンの教え』を読んだ。

植草甚一がやたらとカスタネダについて書いていたので、興味をもった。

ドラッグによる知覚の拡大。終わりなき探求の記録。

ペヨーテ、ダツラ、キノコ(盟友)を使い、日常を超える世界と出会う(空を飛ぶ、カラスになる、恐怖を体験する)。どうにも要約しがたい内容。

フィクション、エッセイ、論文、手記、それらの混じりあった不思議な本。

求道的な主人公とそれを援助するドン・ファン。

お前がその道を行くべきでないと感じたら、どんな時でもそこに留まってはいかん。そういう明晰さをもつには、訓練された生活を送らねばいかん。その時はじめて道は道にすぎんことがわかるだろう。

まずは「恐怖に打ち勝つ」こと。

「恐怖に打ち勝つにはどうすればいいんだい」

「答えは簡単さ。逃げないことだ。恐怖なぞものともせずにつぎのステップへ進むんだ、それからつぎ、つぎへとな。きっと恐怖でいっぱいになるにちがいない、だが止まってはいかんのだ。これがルールだ!」

恐怖に打ち勝ち自信、野心、明晰さを手に入れる主人公。

次の段階は、自分の明晰さに溺れてしまう己に打ち勝つこと。

明晰さを無視して見るためにだけそれを使い、じっと待って新しいステップに入る前に注意深く考える。特に自分の明晰さはほとんどまちがいだと思わねばならん。そうすれば、自分の明晰さが目の前の一点にしか過ぎないということを理解するときがくる。こうして第二の敵を打ち負かすんだ。そうして何物も二度と彼を傷つけない所へ着くわけだ。これはまちがいじゃないぞ。それは単なる目の前の一点じゃない。本当の力だ。

クライマックスはホラー小説みたいな影との戦い、空を浮遊すること、カラスなどが登場する。

主人公の求道譚は続いていく。カストロネダは「ドン・ファン」シリーズを生涯書き続けた。

原書は1968年に出版された。カウンター・カルチャーの時代の真っ只中で書かれた作品。

「スピリチュアル」というジャンルで囲ってしまえばそれまでだが、論理的な世界を超越しようという姿勢はおもしろいし、最後のオバケみたいな得体の知れないものとの駆け引きは恐ろしさがあった。

「求道的」でいえば、パウロ・コエーリョが好きな人は読んでみてもいいかもしれない。