【要約】『デジタル・ミニマリスト』カル・ニューポート

「デジタル・ミニマリスト」はデジタル・アテンション・エコノミー(SNS)に抵抗するアテンション・レジスタンスの哲学である。

はじめに

四六時中スクリーンを凝視せずにいられないせいで、人々は、どこに、何に注意を向けるべきかの判断を自分ではない何かにコントロールされているように感じ始めている。

デジタルツールの過度の使用がもたらす疲労感。主体性を弱め、幸福度を低下させ、負の感情を増幅し、より大事な活動から注意をそらせる力

デジタルミニマリストは知っている。現代のハイテクな世界で生き延びていくために必要なのは、テクノロジーを使う時間を大幅に減らすことだ。

デジタル片づけにあたっては、かならずしも必要ではないオンライン活動から三〇日間遠ざかることになる。この期間中に、デジタル・ツールの数々によって植えつけられた依存のサイクルから離脱し、より大きな充実感をもたらすアナログな活動を再発見する。散歩をする、友人と会っておしゃべりをする、地域社会との関わりを深める、本を読む、雲をただ眺めるといったことだ。しかし何より重要なのは、デジタル片づけによって、人生でもっとも大事なこととは何か、理解を研ぎ澄ますための余白が生まれるということだ。三〇日の期間が過ぎたら、今度は、それら大事なことを達成するためにメリットがあるか否かという基準で厳選した少数のオンライン活動を復活させる。そこから再スタートを切って、かつて時間を細切れにし、集中力をそがれる原因となっていた注意散漫を誘う行為の大部分を退けて、厳選した主体的な活動のみをオンライン生活の核とすることに全力を傾けよう。デジタル片づけは、強制リセットボタンを押すようなものだー始めたときのあなたは疲れ果てたマキシマリストだったが、終えたときのあなたは主体的に行動するミニマリストに生まれ変わっている。

私たちに必要なのは、いま決定権を握っているもの、すなわち人々の原始的衝動やシリコンヴァレーのビジネスモデルを王座から追い落とし、自分の真の望みや価値観に従って日々の行動を選択するよう促す哲学だ。新しいテクノロジーを受け入れつつ、それを利用する代価がアンドリュー人間らしさの喪失であるならば、迷いなく排除するような哲学。短期的な満足よりも、長期的な価値を優先するような哲学。

スマホ依存の正体

「承認欲求」という本能的衝動は、新しいテクノロジーによって乗っ取られ、金銭的利益をもたらす行為依存を生み出すことに利用されている。

ここで強調しておきたい点は、抵抗できないのは個人の自制心に問題があるからではなく、莫大な利益を生むように策定されたビジネスプランが現実になっただけということだ。

私たちは現状のデジタル・ライフに望んで”登録”したわけではない。いまあるこの世界は、テクノロジー業界に出資した一握りの投資家に儲けさせることを最優先に役員会議室で作り上げられたものといっても大げさではないのだ。

デジタル・ミニマリズムとは?

自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、他のものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学。

大事なことから逆算して日々の行動を決めるミニマリスト的な哲学

この哲学を採用したデジタル・ミニマリストと呼ぶべき人々は、費用対効果を常に意識している。

デジタル・ミニマリストは、通常とは逆に、自分が心から大事にしていることを基準に利用すべきテクノロジーを選び、注意散漫の元凶たる新しいテクノロジーを充実した人生を支えるツールへと変貌させる。そしてそのことによって、多くの人がますますスクリーンにコントロールを奪われていると感じ始めているなか、ミニマリストはその呪縛から解放されている。

理想的なデジタル・ライフとは、具体的なメリットを最大限に享受できるよう、自分が使うツールを意識的に取捨選択することで作るものと考えている。彼らは、自分の時間と注意を無意味に削り取ったあげく、役立つどころか損失をよこしてくるような価値の低い活動を極度に警戒する。

要するに、小さなチャンスを見逃しても気にしない。それよりも、人生を充実させると確実にわかっている大きなことがらをないがしろにすることのほうを恐れるのだ。

デジタル・ミニマリズムの3原則

  1. あればあるほどコストがかかる(ソローの新経済論)
  2. 最適化が成功のカギである(収穫逓減)
  3. 自覚的であることが充実感につながる(アーミッシュのハッカーに学ぶ)

デジタル片づけのプロセス

  1. 30日のリセット期間を定め、必須ではないテクノロジーの利用を休止する。
  2. この30日間に、楽しくてやりがいのある活動や行動を新しく探したり再発見したりする。
  3. 休止期間が終わったら、まっさらな状態の生活に、休止していたテクノロジーを再導入する。その一つひとつについて、自分の生活にどのようなメリットがあるか、そのメリットを最大化するにはどのように利用すべきかを検討する。

このライフスタイル実験は、家の大掃除のようなもの。長年ためこんできた注意をそらすツールや習慣性のある行為をまとめて処分し、その代わりに、より意識的な行為をミニマリストらしく最適化した状態で呼び戻し、それまで生活から締め出されがちだった大事なことを中心に据え直す。

必須ではないテクノロジーとは、それがなくても、仕事やプライベートな生活に悪影響が及んだり、重大な問題が発生したりしないものを指す。

ミニマリストのテクノロジー選考基準

以下の条件を満たしたテクノロジーだけをリセット期間明けに再導入する。

  1. 大事なことがらを後押しする(何らかのメリットがある程度では不充分)。
  2. 大事なことがらを支援する最善の方法である(最善ではないなら、代わりに別の方法を考える)。
  3. いつ、どのようにそのテクノロジーを利用するかを具体的に定めた標準運用規定に沿った形で生活に貢献できる。

1人で過ごす時間を持とう

孤独の価値

ここで言う孤独とは、他者の思考のインプットから解放された状態を指す。

孤独の欠乏

他者の思考のインプットに気を取られ、自分の思考のみと向き合う時間が限りなくゼロに近づいた状態。

長い散歩に出よう

  • 「歩いて到達した思想にのみ価値がある」「座って過ごす人生は精霊に対する罪である」ニーチェ
  • 「他に何もせず、ただ歩くとき、田園は私の書斎となる」ルソー

“いいね”をしない

  • 会話を取り戻そう
  • テキストメッセージはまとめて処理しよう
  • 営業時間を設けよう

趣味を取り戻そう

ありあまる余暇と意識的な生き方という2つの条件を満たしている点において、経済的自立FI 2.0ムーブメントを達成した若い世代は質の高い余暇活動とは何かを考える際にとりわけ参考になる。

余暇活動の教訓

  1. 受け身の消費よりも、体を動かす活動を優先しよう
  2. スキルを生かし、物質的な世界で価値あるものを作り出そう。(デジタルではなく、アナログ)
  3. 親睦を支える枠組みが用意された、リアルな世界での交流が必要な活動を探そう

質の低いデジタル習慣による時間の枯渇を避けるには、質の高い余暇活動を始めることがまず必要であると言うこと

スクリーンから提供されるものを漠然と受け取る行為がそのまま床活動であるような状態は避けるべき。より良い。娯楽の大半は、基本的に物質的な世界で見つかる。

笑えるYouTube動画を眺めて、1時間を過ごせば、エネルギーが枯渇するかもしれないが、バスルームの換気扇のモーターを交換する方法をYouTubeの動画で学べば、にわか修理屋として充実した午後を過ごすことができる。

デジタルミニマリズムの土台をなすテーマは、単に技術革新を忌避したり、反対に漫然と受け入れたりするのではなく、意図と目的を持って利用するなら、新しいテクノロジーはより良い生活を生み出すものであると言うことだ。

演習:週に何か1つ、修理するか作るかしてみよう【DIY】

質の高い余暇活動を先に開拓すれば、質の低いデジタル娯楽を後から最小限にするのは容易になる

質の低い余暇活動に費やす時間をあらかじめスケジュールに入れておく。この時間帯には何をしても構わない。ただし、この時間帯以外はオフラインで過ごすこと。

注意や関心を奪うサービスを利用する時間を厳格に制限すれば、もっと実のある活動に当てるべき残りの自由時間が削り取られるずに済む。

また、質の低い娯楽を完全に諦めるところまでは要求しない。

質の低い余暇活動に割り当てる時間の長さは気にしない。質の高い余暇活動が占める割合が増えるにつれて、自然とより積極的に制限をかけることになるはずだ。

この戦略の何がソーシャルメディア企業を震え上がらせるのか。それは、時間を制限する経験を通じて、ソーシャルメディアに費やす時間を思い切って減らしたとしても、サービスを利用するメリットの大半を逃しているような気持ちにはならずに済むことがわかってしまうからだ。推測するに、週に合計で20分から40分程度利用すれば、これらのサービスのメリットの大方を享受できる人が大半だろう。

SNSアプリを全部消そう

SNSを利用するなら、モバイル版のアプリには近寄らないこと。モバイル版の方があなたの時間と注意にはるかに大きな危険が及びかねないからだ。というわけでこの戦略では、スマートフォンからソーシャルメディアのアプリを全て削除することを提案する。サービスを退会する必要は無い。外出先でアクセスするのを止めるだけだ。この戦略はデジタルミニマリズムの基本中の基本と言える。

パソコンからアクセスすると言う少しの手間が加わるとSNSを止めるきっかけになったり、価値の高い特定の目的があるときだけログインするようになる。

原則として、SNSはブロックしておき、意識的に設定したタイミング、スケジュールに限ってアクセスするようにする。原則としてブロックすると言う戦略は、デジタルアテンションエコノミーの果実をあなたから完全に取り上げるわけではなく、今よりも意識的にアプローチするよう促すに過ぎない。これはコンピューターとの関係について、これまでと違った考え方の1つであり、またこの注意散漫の時代にミニマリストであり続けるために、今後ますます必要になっていく考え方でもある。

いろいろなスロー運動に共通する原則として、低品質なものを大量に提供するところより、高品質なものを少量だけ提供するところの方がおしなべて優れている。

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