NHKの番組「怪魚ハンターが行く!大縦断3500キロ 南米の秘境に巨大魚を追う」を観た。
番組の前半は怪魚ハンターの武石憲貴さんがアルゼンチンのラプラタ水系でドラードを狙い、後半では南部パタゴニアでモンスターレインボーに挑むもの。
武石憲貴のドラード釣り
番組の前半のターゲット、ドラドの黄金に輝く姿は美しかった。
最終日、20分の格闘のすえ、怪魚ハンターの武石氏は1メートル4センチのドラードを釣り上げる。写真等は武石氏のブログにも書かれてある。
怪魚ハンターが行く!アルゼンチン編四方山話その1 | 怪魚ハンターが行く!(武石憲貴 Blog)
開高健のドラード釣り
番組を観ながら思い出したのは、作家の開高健もドラド釣りについて書いていたことだった。
『オーパ!』という釣り紀行文で、開高健もまたアルゼンチンのラプラタ水系でドラードを狙う。しかし、怪魚ハンターとは対照的に四日目になっても釣れない。すると開高健の思索の糸は太古のむかしを漂いはじめ、釣りの合間に目にする猿、サギ、ワニの描写などに意識はうつっていく。
そしてようやく「すると突然」が訪れる。
四日目の夕方だったろうか。(中略)ふいに強い手でグイと竿さきがひきこまれたかと思うと、つぎの瞬間、水が炸裂した。一匹の果敢な魚が跳ねた。右に左に跳んでは潜り、消えては走り、落下しては跳躍した。(中略)牧場の草むらによこたえて、汗まみれの眼で眺めると、これはまさに黄金だった。ドラドだった。夕陽が燦爛、その腹の金と、歯の白に輝いた。(中略)かけよってくる二人と、竿を投げて手をとりあって踊った。(中略)草むらにすわってタバコに火をつけようとすると手がぶるぶるふるえる。いつもこうなる。いつも最初の一匹では手がふるえるのだ。四〇センチそこそこの中学生ぐらいの魚だけれど、それでも処女作は処女作。一匹は一匹である。無傷の一瞬だ。『オーパ!』
釣りの感触や臨場感が文章から伝わってくるようだ。
釣りを表現するのは映像か、文章か
怪魚ハンター武石氏の釣りは素晴らしかった。狙った獲物を確実に仕留める。まさに「ハンター」である。
だけど、NHKの番組は思ったほど面白くなかった。1時間のあいだに一部始終をおさめようとしたためか、かんたんに「怪魚」のドラドが釣れてしまう、ように見えた。
展開が早すぎて、ドラマがない。開高健の文章のような、淀みや停滞がない。1日目には何センチのドラドが釣れて、最終日に目標の1メートルのドラドを超えた、よかったというだけに思えてしまった。
1時間のテレビ番組で釣りのドラマをまとめることがそもそも不可能ということなのだろうか。
怪魚ハンターの武石も先のブログでこう述べている。
っていうか、ウルグアイ川でのドラード編、僕のドラード釣果の75%をカットするってどーゆうこと!(-_-#)。番組では104cmのドラードしか放送されなかったけど、いくらなんでも最大魚は出そうよ…(T_T)。バンバン跳ねてるところ、もっと見たかった。まあ、放送時間にも限りがあるわけでしょうがない…
NHKのテレビ番組からはドラド釣りのドラマが伝わってこず、現場の臨場感も感じられなかった。
開高健は釣り人自身の目線で釣りを描いている。魚を釣っていないときに出会ったもの、考えたことまでもが「釣り」という行為に含まれる。
登場する人びと、料理、書物の引用、自然、すべてがドラドと格闘するクライマックスへのお膳立てになっている。釣りの醍醐味は魚との闘いの前からはじまっている。
怪魚ハンターに興味を持った人は、元祖怪魚ハンター開高健の釣り紀行『オーパ!』シリーズを読むことをおすすめしたい。
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